これまで、多くの問題を抱えながら人手不足の業界の人材供給の役割を担ってきた外国人の技能実習制度ですが、このたび2017年11月1日施行の「技能実習法」によって、大きく見直されることになりました。
まず一番の違いは、新たに監督機関である「外国人技能実習機構」ができ、その「外国人技能実習機構」による監督制度が始まります。
外国人技能実習機構による監督
例えば、技能実習生を受け入れる監理団体(例:事業協同組合など)はあらかじめ同機構に対して申請の上、監理団体の「許可」を受ける必要があります。また、実習実施者(受け入れ先企業)は届出る必要があり、同機構に技能実習計画の認定を受けた上で入国管理局に在留資格の認定を申請することになります。
つまり、現在すでに技能実習制度を行っている事業協同組合や受け入れ企業も許可や届出、認定を受ける必要があります。
また、今後は管理団体、実習実施企業は「外国人技能実習機構」に報告したり,実地に検査があったりし、その結果、改善命令に従わない時は許可の取消しもありえます。
優良な実習実施者や監理団体にはメリットも
それだけを聞くと、随分規制が厳しくなったように見えますが、技能実習生に対する人権侵害行為が目に余る現状の中、そのような団体を厳しく監督する一方、優良な実習実施者や監理団体には、新たに第3号技能実習生として、4~5年目の技能実習の実施が可能となり、受入れ人数枠も拡大されました。
これまでは、最長3年だった実習期間が5年に延長されるので、手をかけて教えてようやく技術が身についてさあこれからという時に帰国してしまうという実習実施企業には朗報となります。
今回制定された「技能実習法」の基本理念として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と改めて明記されています。その中で、今回新たに設置、制定された部分について、解説していきます。
1.外国人技能実習機構の設立
今回、一番大きく変わるポイントは、この「外国人技能実習機構」が設立されたことです。これまで、入管やJITCO(公益財団法人 国際研修協力機構)が行ってきたことをまとめて行い、更に様々な役割や権限が与えられています。
主な役割としては
- 技能実習計画の認定、実習実施者(外国人を受け入れる企業や団体のこと)の届出の受理
- 監理団体の許可申請の受理等
- 実習実施者や監理団体に対する指導監督(実地検査・報告徴収)
- 技能実習生からの申告・相談
といった技能実習制度の適正な実施、技能実習生の保護に関する業務を行います。
機構は、東京に本部事務所が置かれるほか、全国で13箇所の地方事務所・支所において業務を行います。※ 東京には、本部事務所とは別に、地方事務所も開設。
これまでJITCO(通称ジツコ)は実地検査などを行ってきましたが、あくまで民間の団体で行政指導をする権限はなく、不適切な監理を行う監理団体もありましたが、今後は外国人技能実習機構による指導に従わない場合は、監理団体の許可の取り消しといったことも行われる可能性があります。
2.技能実習計画の認定制
これまでは、入管での在留資格認定の手続きの中で確認していた技能実習計画を、新しい制度では、外国人技能実習機構で事前に認定を受けることが必要になりました。
技能実習計画自体は従来のものとそれほど変わりありませんが、あらかじめビザの申請の前に認定を受ける必要があることに注意が必要です。
また、認定を受けた場合であっても、その後、認定の基準を満たさなくなった場合や、認定計画のとおりに技能実習が行われていない場合等には、実習認定の取消しが行われることになります。
この認定申請は、外国人技能実習機構の地方事務所・支所の認定課に行います。認定申請は、技能実習開始予定日の6か月前から可能です。
また、原則として、開始予定日の4か月前までに申請を行うことが必要です。今回の新制度での認定申請の事前受付開始は、7月3日が予定されています。
申請には、手数料が計画1件につき3,900円必要です。
3.実習実施者の届出制
これまでは、実習実施機関が適切かどうかは個々の技能実習生のビザの申請の場面で、入管が確認していましたが、今後は実習実施者が技能実習を開始したときには、届け出なければならないことになりました。
この届出も、外国人技能実習機構の地方事務所・支所の認定課に行います。
4.監理団体の許可制
これまでは、監理団体が適切かどうかは個々の技能実習生のビザの申請の場面で、入管が確認していましたが、監理団体としての許可は必要ありませんでした。
しかし今後は、主務大臣の許可を受けなければならないこととされ、監理団体として満たさなければならない要件が、技能実習法などで規定されています。
許可を受けた場合であっても、その後、許可の基準を満たさなくなったときには、監理事業の全部又は一部の停止や、監理事業の許可の取消しが行われることになるので、常に法令等の基準を満たして監理事業を適正に行う必要があります。
なお、監理団体の許可には、2種類あります。
一般監理事業
第1号から第3号までの全ての段階の技能実習に係る監理事業を行うことができます。
つまり、今回新設された「第3号」(最長の実習期間が3年から5年になり、受け入れ人数も増える優良団体にのみ申請可能な枠)を得るためには、「一般監理事業」の許可を受ける必要があります。
特定監理事業
第1号技能実習及び第2号技能実習に係る監理事業を行うことができます。「一般監理事業」の許可が受けられない団体の場合は、こちらになります。
この許可申請は、監理団体が日本中どこにあっても外国人技能実習機構の本部事務所の審査課に行います。(郵送可)第1号技能実習の実習監理(技能実習計画の作成の指導等)を開始する予定の3か月前までに申請を行うことが推奨されています。11月の施行を控え、6月1日からこの許可申請の受付が開始されます。
申請に当たっては、申請手数料1件2500円、調査手数料1件4万7,500円、登録免許税1件1万5,000円がかかります。
5.技能実習生の保護
新制度では、技能実習生の保護のため、技能実習の強制、違約金設定、パスポートや在留カードの保管などに対する禁止規定、これに違反した場合の罰則を定めています。
また、実習実施者又は監理団体の法令違反があった場合に、技能実習生が通報・申告することができ、技能実習生からの相談に応じる体制を整備しました。
さらに、人権侵害行為を受けた技能実習生が引き続き技能実習を継続することができるよう、外国人技能実習機構が転籍を支援する体制も整備するとのことです。
これまでは一旦入国したのちの実習先の転籍は不可能だったため、劣悪な環境を変える手段を持たなかったり、在籍中に企業の経営が悪くなったときなどは帰国を余儀なくされていたのが変わるかもしれません。
6.優良な実習実施者・監理団体に対する優遇措置
- 実習期間の延長⇒最長3年から最長5年へ(いったん帰国後、1カ月以上の間を置いて再び最大2年間の実習が可能になります。)
- 受け入れ人数枠の拡大⇒常勤従業員数に応じた人数枠を倍増(最大5%までだったのが、最大10%までに)
- 対象職種の拡大⇒地域限定の職種・企業独自の職種(企業単独型の場合。社内検定の活用)・複数職種の実習(例:とびと土木など)
優良な監理団体とは、法令違反がないのはもちろん、技能評価試験の合格率や相談・支援体制などをポイント化し、120点満点の6割以上を満たした団体となります。ポイント詳細は、お尋ねください。
第3号(最大5年)の実習について
今回新たに、技能実習2号を終えた人の中で優良な実習実施者、監理団体に限定して、第3号技能実習生の受け入れ(4~5年目の技能実習の実施)が可能になります。対象職種は技能実習2号対象職種と同じで、対象者は「技能検定3級相当」の実技試験に合格した第2号の実習生となります。第3号の実習開始前には必ず1ヶ月以上いったん帰国しなければなりません。
新制度移行スケジュール
施行日である11月1日をまたぐ申請については、来日する日によってどちらの制度で行うかが決まってきます。2017年10月31日までに申請して在留資格認定証明書が発行されて3カ月以内に入国する場合には、従来通りの申請で大丈夫です。11日1日以降の申請には新制度が適用されます。
また、既に日本に在留する技能実習生の変更・更新申請も1月31日までの期限の人で10月31日までに変更・更新申請をした場合は、現行制度で大丈夫です。逆に申請が11日1日までになされなければ、新制度での計画認定が必要です。
当事務所では、監理団体の許可、技能実習計画の認定、実習実施者の届出、企業単独型での在留資格認定証明書許可申請について承っています。詳しくは当事務所までお問い合わせください。